デスパー10
こいつが死ぬという事は、オレが解放されるということ。オレもかなりのダメージを負うが……解放されるのなら、どうということはない、じっくりダメージを治療すればいいだけのこと。
故に、こいつは、自分が死を撒き散らす存在だということを自覚していても、自殺はできん。その事実が、こいつを、精神崩壊させる一つの布石になる。
こういうのを、人間の言葉で……そう、『生き地獄』と言うのか? ククク……
(はやくその身体をオレに明け渡すんだな! そうすれば、もっともっと死人が出るぞ、ククククク!)
「…………!」
拳をギリギリと血が出るほど強く握り締める。それはまるでオレの、甘美な囁きを必死に振り払おうとするかのように。
しかし……その拳が緩んだ……女の指が、ピクリと動いたように見えたのは気のせいか?
幸一がなおも観察を続けていると、
「か……カハッ!」
……息を吹き返した?
……クソ、久し振りだったからな、手元が狂ったか? しかし『意思』は確かに喰らった。最悪でも昏倒は免れんはず……
幸一の表情はほとんど動かん……ただ、目元は微かにだが緩んでいる。心底ホッとしているのだ。
幸一は女に自分の上着を脱いでかけてやり、背負うとゆっくりと自宅に向かって歩き出した。
が、どうするつもりだ?
こいつはお前を殺そうとした奴なのだぞ?
命を救われたからと言って、見逃すような奴ではあるまいし、返り討ちにあったからと言って逃げるような奴でもないことは、十二分にわかっているだろう?
「…………」
その問いに対する返答も、幸一はやはりしなかった。
いや、できなかったのさ……
そうだろう? ククク……