ビル4
「朝、路地裏で不良に絡まれていた」
逆光だったが、田村が顔をしかめたのがわかった。
「不可抗力か。まさか見捨てる訳にもいかないしな」
「見捨てた方が、あるいはあいつのためだったかもな」
幸一は、自虐的な台詞を、淡々と無表情に紡いだ。
それは言えてる。お前に関われば関わる程、そいつは死へと近づいていくのだから。
唐突に幸一は椅子から立ち上がり、
「帰る。いつもすまんな」
顔を向けずに歩き出す。トシヤは肩を竦め、
「こんな密会紛いのことで助かるのなら、何万何千回としてやるよ」
嘘偽りの、一切ない声で答えた。
それが本当に嘘偽りがないとわかっているからこそ、オレは未だに幸一を精神崩壊へと追い込めないのだ……本当に、この俊也という奴はオレにとって忌々しい存在……!
僅かな光源から、廊下の暗がりに消えていく幸一を、俊也がただ見つめていた。